空き家問題がニュース等で取り沙汰されたことは記憶に新しいのではないでしょうか。
空き家を放置することには、次のような問題があります。
・倒壊の危険がある
・衛生環境の悪化
・治安の悪化
・土地がもったいない
…他
この空き家問題解決のための一つの方法として、税法上の特例が設けられています。
それが、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。
特例の概要
個人が不動産を売却した場合には、その利益は「譲渡所得」という所得となり、それに対して20.315%(短期の場合には39.63%)の税金が課されます。
譲渡所得の計算式は以下のとおりです。
売った金額 - 取得費 - 譲渡費用 = 譲渡所得
この譲渡所得から3,000万円控除することができるというのが、今回紹介する特例です。税率が20.315%なので、税金が6,094,500円安くなるというわけです。
取得費と譲渡費用の合計が売った金額を上回り、譲渡損失が出る場合には、この特例は必要ないことになります。
特例を受けるための要件
家屋
(1)昭和56年5月31日以前に建築された建物であること
これ以前は旧耐震基準だからです。
(2)区分所有建物登記がされている建物でないこと
マンション等は対象外です。
また、区分所有建物登記がされた2世帯住宅等も対象外となります。
(3)相続開始直前に被相続人が一人で住んでいたこと
要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所していた場合など、一定の要件を満たすときは該当します。
ただしその場合は、入所等から相続発生まで次の2つの要件を満たす必要があります。
①その家屋が被相続人の物品の保管等に供されていたこと
②他の用途に供されていないこと
※「いつでもその家に戻れるようにしておく」という感じでしょうか。住む人がいなくなったからと言って、貸付等をしてしまうと、この特例は使えないことになります。
土地
相続開始直前(老人ホーム等に入所する直前)に被相続人が居住する家屋の敷地であったこと
手続要件
(1)売った人が空き家及びその敷地を相続等により取得したこと
家屋と敷地の両方を取得する必要があります。
敷地について兄Aと弟Bが1/2ずつ取得し、家屋は兄Aが単独で取得した場合、この特例を受けられるのは兄Aのみで、弟Bは受けられないことになります。
こういう場合は、家屋についても共有で相続しましょう。
(2)譲渡時までに空き家を取り壊してから、敷地を譲渡すること
「耐震基準を満たすようにリフォームしてから売る」という方法もあるにはあるのですが、昭和56年5月31日以前に建築された古家を耐震リフォームというのは合理的ではありませんので、実際にはほぼ全ての人が取り壊す選択をしているようです。
ここはとても重要なポイントなのですが、譲渡後の取り壊しだと、この特例は使えません。
不動産取引としては、家屋込みで購入して買主が取り壊しを行うというのも普通ですが、税金のことを考えると、売主が取り壊して、取り壊し代金を売買代金に上乗せしてもらう方がお得です。
悔やんでも後の祭りなので、早めに税理士に相談してください。不動産業者に「大丈夫」と言われて安心していたら、いざ申告のときに大丈夫じゃなかったという事例が発生しているようですので、ご注意ください。
(3)相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
2017年1月2日相続開始の場合…2017年の1月2日から3年を経過する日は2020年の1月1日なので、2020年の12月31日までに譲渡すればセーフ。
(4)売却代金が1億円以下であること
ここで注意すべきは固定資産税の精算金です。固定資産税の精算金は売買代金として計算しますので、これも含めた売却代金が1億円以下でなければなりません。
(5) 売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。
(6) 同一の被相続人から相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。
(7) 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと。
まとめ
譲渡所得から3,000万円控除という効果の大きい特例ですが、適用要件を満たすためには、遺産分割時や譲渡時から注意すべきことがあります。
確定申告のときに始めて考えるということでは要件を満たしていない可能性が高いので、お早めの相談をおすすめ致します。